▹エッセイ
母のこと
【母のこと】
「アヤヤヤヤヤヤヤヤ」
私の母は
突然この言葉を叫ぶ
「ヤ」の多さによって
ハプニング度が変わる
とある昼下がり
私は、オムレツを作ろうと思い
準備を始めようとしていた
その時だ
いつもとは、まるで違う
「アヤヤヤヤヤヤヤヤや」が!
しかもなかなか
「ヤ」が終わらない
「いや、入った」という
おまけ付
「あ~、何か家に入ったんだな。。。」と
状況を見守っていると
台所に右の靴だけを履いて
母が飛び込んできた
「蜂、蜂が玄関あけたら
私の頭に向かって飛んできて
家の中に入った」
そう言って
台所の引き戸をぴしゃりとしめ
私を見た
目が言っている「いけ!」
私が動かないでいると
「おかあちゃんは
くらめの服を着てるから」
と再度私を見た
目が言っている「早くいけ!」
ちなみにその時の母の服装は
紫のTシャツ、ベージュのパンツ
私の服装は
白とピンクのボーダーチュニック
黒の黒のレギンスだった
疑問はあったが
こうなっては私が行くしかない
蜂がいるであろう
部屋をのぞいてみた
何かが飛んでいる気配はなく
羽音もしない
「いないのでは。。。」と
思ったが
「いる」と強く思っている
右側だけ靴を履いた母は
「殺虫剤は」と言い出した
それは、蜂がいるであろう部屋の
中央に置いてある
それを、取りに行けというのだ
ここで逆らっても
時間だけが無駄にすぎるので
取りに行こうとした瞬間
私は思い出した
『蜂の殺虫剤は
残りがすくない』
私は少し勝ち誇ったような気持で
左側だけ素足の母に行った
「買いに行ってくるわ」
その瞬間、空気が変わった
今まで、ライオンのような
強い目線だった母が
子猫のような目線に
変わったのだ
「私を蜂がいるかもしれないこの部屋に
一人置いて
あなたは、この家を出るの?」
そう言っているように思えた
「一緒に行く?」
「うん!」
何と素直ないい返事だろう
これは、「うん」の言い方の
お手本として
全国の学校に採用してほしい
それぐらいの
満面の笑みの綺麗な「うん」
私は、かばんを取り
玄関に向かった
そして、母はここで
自分の状況を知る
「ねぇ、片方の靴がない!」
母の左側の靴は
玄関から部屋に入るところで
左を向いてころがっていた
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ちなみに
蜂はやはりいなかった


